Playストアからの削除警告について
Subway Tooterの概要
Subway Tooter は分散マイクロブログサービスであるMastodonのAPIを利用するクライアントアプリケーションです。
このアプリはMastodon APIと十分な互換性のある任意のサーバにアクセスできます。接続先のサーバを運営しているのはSubway Tooterではないことに注意してください。
Mastodonの概要
Mastodonは分散マイクロブログの製品名です。Webやメールと同様に、世界中に何千ものサーバが存在します。それらのサーバはそれぞれ異なるポリシーを持ち、全体が緩く連合しています。サーバやユーザは他のサーバやユーザを自由にブロックできます。
Googleからのメール
Subway Tooter だけでなく、Fedilab, Husky, MastoPane なども同様の削除警告を受け取っています。
From: Google Play Support
日付: 2020/08/27 20:13 (JST)tateisu デベロッパー各位
いつもご利用いただき、ありがとうございます。このたびの審査の結果、お客様のアプリ Subway Tooter(パッケージ名 jp.juggler.subwaytooter)は 1 つ以上のデベロッパー プログラム ポリシーに準拠していないことが判明いたしました。この問題につきましては、こちらの通知の発行より 7 日以内に修正してくださいますようお願いいたします。修正していただけなかった場合、お客様のアプリは Google Play から削除されます。Reasons of violation
ユーザー作成コンテンツ(UGC)に関するポリシーについて
人種、民族、宗教、障害、年齢、国籍、従軍経験、性的指向、性別、性同一性など、組織的な人種差別や疎外に結び付く特性に基づいて個人もしくは集団に対する暴力を助長、または差別を扇動するアプリは認められません。要対応: 更新したアプリを 7 日以内に送信する
Google Play でアプリの公開を続けるための手順は以下のとおりです。
1. ユーザー作成コンテンツ に関するポリシーの詳細を確認
2. アプリを修正し、上記の問題に対処したことを確認(該当する場合は、アプリのストアの掲載情報が準拠しているかどうかも確認)
3. アプリが他のすべてのデベロッパー プログラム ポリシーに準拠していることを再度確認
4. Play Console にログインし、アプリのアップデートを送信サポートへのお問い合わせ
該当のポリシーをご確認いただき、弊社の今回の判断が誤りだと思われる場合には、お手数をおかけいたしますが、Google Play のポリシー サポートチームまでお問い合わせください。担当者が 2 営業日以内にご連絡いたします。デベロッパーとユーザーの皆様に Google Play を快適にご利用いただくための取り組みにご協力いただき、ありがとうございます。
恐れ入りますが、こちらのアンケートの 2 つの質問にご回答をお願いいたします。いただいた回答は今後の改善に役立てさせていただきます。
Google Play チーム
Google Play ストアのポリシー
指摘された事項は https://support.google.com/googleplay/android-developer/answer/9878810 の ヘイトスピーチに関するものです。
人種、民族、宗教、障害、年齢、国籍、従軍経験、性的指向、性別、性同一性など、組織的な人種差別や疎外に結び付く特性に基づいて個人もしくは集団に対する暴力を助長、または差別を扇動するアプリは認められません。
また、https://support.google.com/googleplay/android-developer/answer/9876937 では次のように記載されています。
不適切な UGC を掲載することを主な目的とするアプリは、Google Play から削除されます。同様に、主に不適切な UGC をホストするために使用されているアプリや、そうしたコンテンツが横行しているという評判がユーザーの間で広まっているアプリも、Google Play から削除されます。
実際に求められていること
今回警告が出されてないアプリもあります。Tuskyがそうです。Tuskyはいくつかのサーバへの接続ができないようになっています。
https://github.com/tuskyapp/Tusky/blob/7a435bd288eee7d3c851b40d679c32e0873bf991/app/src/main/res/values/donottranslate.xml#L138
※ この注釈がGoogleの名誉になるのか分かりませんが、Googleがこれらのサイトのbanを明示的に要求したことはありません。
UIの異なる複数のアプリが同時期に警告を受けています。彼らが問題に感じているのは規約表示などのUIではなく、特定サーバに接続可能なことでしょう。
問題のあるサーバとは
Tuskyが接続を許可しないサーバ群に関する記事を紹介します。
blog.crazynewworld.net
感想
Subway Tooter は問題のあるコンテンツを Host / Promote していません。アプリはユーザが入力したサーバにアクセスするだけです。これはWebブラウザでサイトを閲覧するのとほぼ同等です。
(技術的な詳細:組み込みのサーバリストは存在しますが入力補完だけに使われます。それはある程度フィルタ済みで、上記のサーバを含みません。もちろんユーザはリストにないサーバを指定することができます。)
Googleのポリシーはおそらくアプリとサービスが同じ組織によって管理されていることを前提にしていますが、現実世界にはそうではないアプリが沢山あります。
最も有名な例はGoogle自身が提供しているChrome ウェブブラウザでしょう。
Chromeで閲覧可能なサーバにクライアントアプリが接続すると、不思議なことにポリシー違反だと審査されるのです。
どちらのアプリも特定コンテンツへの誘導は全く行っていないのに、コンテンツに関する責任が後者にだけ発生するというGoogleの審査には説得力がありません。
また、分散SNSサーバの利用傾向においてもWebブラウザの存在は小さくありません。
分散SNSのサーバで一般的に言えますが、Web UI の利用率はクライアントアプリすべての合計より圧倒的に高いです。最近のWebアプリは出来が良く、単一アカウントで使うならクライアントアプリなど不要です。よってWeb UIからクライアントアプリへの移行はそれほど活発ではありません。プロプラなSNSと違って、アプリへの移行を促す広告などはほぼ存在しません。
もしGoogleが本当に特定のサーバへのアクセスを減らしたいのなら、まずChromeウェブブラウザで規制を行うべきだと思います。
利用者は他のブラウザを使うだけですが、少なくともGoogleの主張に一貫性が出ます。
ヘイトスピーチサーバーを遮断したいというGoogleの要望を理解しています。
しかし不明確なポリシー違反によって変更を押し付けるのではなく、Googleが率先してサーバー禁止リストを維持し、世論に立ち向かい、それをChrome Webブラウザーに適用するべきです。
これらはアプリ作者がすべきことではありません。
特に禁止リストを維持することは非英語圏の住人には困難です。
I understand Google's desire to shut out hate speech servers. but instead of pressing the change by unclear policy violation, Google should take the initiative to maintain the server ban list, confront with public opinion, and enforce it to Chrome web browser. These are not things the app author should do. Especially maintaining the ban list is difficult for non-western residents.
言わないと分からない人がいるから書きますが、これは皮肉ですよ。現実になりそうな気配もありますが。
Subway Tooter の対応
オープンソースで汎用のクライアントアプリがわざわざサーバをモデレートするというアイデアには以下の問題があります。
ユーザはそれを必要としていません。
サーバやユーザは既に十分なモデレーション機能を持っています。問題のあるコンテンツの多いサーバをブロックしているサーバは珍しくありません。
分散SNSは決して無法地帯ではありません。サーバごとにポリシーが異なるだけです。
Googleが期待するような効果もありません。
特定のサーバに接続したい人はブラウザを使うだけでよいし、このアプリをフォークしてブロック機能を削除することもできます。
非中央集権化を目指すサービスの一部としてふさわしくありません。
Mastodonの作者の意見を引用します。
mastodon.social
これは非現実的な考えです。 リリース/レビュープロセスの背後にいるときにフェデバースの変化に追いつくのが難しいだけでなく、信頼性の点で単一障害点が発生します。 Googleは、他に間違いがあったとしても、あなたが個人的にはそれに値するとは思わないコンテンツをブロックするようアプリ開発者に簡単に圧力をかけることができます。
今後の配布について
上記の理由から、Subway Tooterは禁止サーバリストを追加しません。
Googleには異議申し立てを行います。それが受諾されなければPlayストアから削除されるのでしょう。
Playストアから削除された場合でも、Androidはオープンなのでアプリの配布自体は継続可能です。
インストール方法A
端末に F-Droidストアアプリをインストールした後に、IzzyOnDroidリポジトリを追加することで Subway Tooterを利用できます。
f-droid.org
apt.izzysoft.de
apt.izzysoft.de
インストール方法B
Subway Tooter の Githubリポジトリの Releases ページ の Assets にあるAPKファイルを使ってインストール/更新ができます。
github.com
アプリの機能も署名も同じものなので、既にPlayストアでインストールした人もAやBの方法でアップデート可能です。
海外の反応
Hacker News でそれなりに注目されたようです。
news.ycombinator.com
qoto.org
Mastodonの作者によるコメント。
mastodon.social
Private Internet Access の記事。
www.privateinternetaccess.com
Engadgetの記事。
www.engadget.com
日本はPlayストア依存率が高いので「規約違反のアプリがストアから削除される」という受け取り方が多いですね。
ブクマコメントへのレス
著しく価値がないから抗議してもストアに配信したいんだと思う
今まで配信していたストアから不当な警告を受けたのですから、抗議するのはごく当然の行動では。
アプリから問題URLを消せば審査通るんじゃ
そんなものは最初から含まれていません。むしろ禁止リストを含まない故に不当な警告を受けています。
GabのブロックならPlayストアの判断として妥当
そんなに有害なのであれば、なぜChromeでもブロックしないのですか?
過去の事例
Podcast Addict という汎用PodcastクライアントアプリがPlayストアからBANされた後に、反響が大きかったのでBANが撤回された事例があります。
9to5google.com
Clover という 4chan 専用クライアントアプリはPlayストアから2回BANされて、それきりです。ただしこれは特定のサーバと強く結びついたアプリです。「不特定多数のサーバに接続する汎用クライアント」ではありません。
https://chandevel.github.io/Clover/gp_unavailable.txt